同性カップルが住宅購入の際に組むペアローンで必要な書類、公正証書。今回は、私たちが具体的に作成した流れを書いてみます。
前回記事「そもそも公正証書って何?」という話は以下ページです。
目次
公正証書作成の流れ
私たちは司法書士などには依頼せず公正証書を作りましたので、自力で作成する際の流れをお伝えします。
必ずしもこれが正解ではないとは思いますが、一つの選択肢としてご参考になればと思います。
ここでは住宅ローンに必要な公正証書「パートナーシップ合意契約」「任意後見契約」の2つを作成する前提の話となります。
【公正証書作成の流れ】
- 文案サンプルを確認する
- 文案作成(文案サンプルから修正事項を盛り込む)
- 公証役場での相談日を予約する
- 公証人に相談、手続きをする
1.文案サンプルを確認する
「ペアローンに必要な公正証書」の章でお伝えしたとおり、ほとんどの金融機関は、渋谷区パートナーシップ証明書に記載の条件を踏襲していますので、その内容を参照して作成すれば問題ないと言えます。
渋谷区パートナーシップ証明書の文案サンプルは、以下の「手引書」のPDFの最後に記載されています。
<渋谷区パートナーシップ証明書>
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/partnership.html
ちなみに「任意後見契約」については、「任意後見契約公正証書」そのものと「代理権目録」というものがセットで必要なので、この2つの内容を考えておく必要があります。
詳しくは渋谷区のサンプルを見てみてください。
もう一つ、EMA日本という団体も文案サンプルを公開しています。EMA日本は『パートナーの性別にかかわりなく「家族」になれる、平等な結婚(同性結婚) が認められる社会』を目指しているNPO法人です。
私たちは利用しませんでしたが、以下のページもご参考にしてみてください。
<EMA日本>
http://emajapan.org/aboutemajapan/%e5%a9%9a%e5%a7%bb%e5%a5%91%e7%b4%84%e6%9b%b8
2.文案作成(文案サンプルから修正事項を盛り込む)
まず、渋谷区パートナーシップ証明書の文案サンプルをよく読みます。
そして不要なものを削除し、必要に応じて修正していきます。迷ったらいったん盛り込んでおき、後で公証役場にいる公証人に相談してもいいと思います。
事前に文案を固めておければその方がベターですが、ある程度その場で相談もできると思います。
3.公証役場での相談日を予約する
公証役場は全国に300か所程度あるようです。以下から近場の公証役場を検索できます。
<日本公証人連合会:公証役場一覧>
http://www.koshonin.gr.jp/list
スムーズに受付を進めるために、事前に電話などで予約をするのが良いと思います。
4.公証人に相談、手続きをする
予約した場合はその日時に、作成した文案を携えて公証役場にいる公証人に相談します。
当日は、渋谷区パートナーシップ証明書のサンプル原案も持参し、「この内容を基本的には参照してます」と伝えるとスムーズかと思います。
私たちの担当してくださった公証人は、同性同士のペアローンにこのような公正証書が必要な事実自体をご存知なかったようなので、正直に「これこれこういう事情で…」と伝えました。
勉強になりますね~、と何でもないことのように反応してくださり、私たちが持って行った文案の内容に対して、その文案通りでいいかどうか等のアドバイスをしてくれました。ただ、これは人によるのかもしれません。
公正証書作成の期間、費用
私たちの公正証書を作成したケースで実際にかかった期間、費用をそれぞれお伝えします。
期間
自分たちで文案を作成し、公証役場で相談してから法務局に登記が完了するまで、約1か月かかります。私たちのケースだと、土日含めて25日かかりました。
注意点として、「ペアローンに必要な公正証書」の章にも書いた通り、金融機関に提出が必要な書類は、作成した2種類の公正証書だけでなく、「任意後見契約に係る登記事項証明書」も必要です。
改めて、ペアローンに必要な公正証書関連の書類は以下3点です。
- 任意後見契約に係る公正証書
- 合意契約に係る公正証書
- 任意後見契約に係る登記事項証明書
ちなみに登記事項証明書とは何ぞやという方のために、簡単な説明を書いておきます。
「登記事項証明書」とは、「法務局の登記簿に登記されている情報が記載されており、その内容を証明する書類」のこと。
※「任意後見契約に係る登記事項証明書」とは、「任意後見契約が無事法務局に登記されていることの証明書」みたいなものです。
なので、「任意後見契約に係る登記事項証明書」を「任意後見契約」登記後に法務局から取り寄せる必要があります。
■公正証書作成の期間
公証役場で相談 |
↓1週間 |
公証役場から正式文案案内&確認 |
↓1週間 |
公証役場で捺印 |
↓1週間 |
法務局で登記完了 |
※郵送で登記事項証明書を法務局から取り寄せると+2週間 |
登記完了まで3週間、登記事項証明書の取り寄せに2週間、計5週間程度かかることを想定しておいた方が良いですね。
費用
それでは次に、実際にかかった費用をぶっちゃけてしまいます。カップル2人分です。
パートナーシップ公正証書(1通) | 13,000円 |
任意後見契約公正証書(1人目分) | 20,000円 |
登記嘱託金(1人目分) | 4,650円 |
任意後見契約公正証書(2人目分) | 20,000円 |
登記嘱託金(2人目分) | 4,650円 |
合計 | 62,300円 |
公正役場へ支払う費用が62,300円です。ただし、役場にもよると思うので、ご参考にしていただければと思います。
あとは法務局への登記事項証明書の取り寄せ費用が480円~600円です。(請求、交付方法によって異なります。)
<法務局:登記手数料について>
http://www.moj.go.jp/MINJI/TESURYO/
※上記ページの表、一番上の行の「登記事項証明書(謄抄本)」です
自力で作ってこのくらいです。司法書士にお願いすると、プラスで10数万かかるとかかからないとか。ググるといくらか情報出てきますので、司法書士への依頼を検討している場合は費用感も認識しておいた方が良さそうですね。
公正証書の種類
公正証書の書類には、「原本、正本、謄本」の3種類の書類があります。(ややこしい…)
実は、住宅ローンの審査に必要なのはどれか、私たちはもちろん、不動産の担当者、金融機関の担当者もまだまだ前例が少ないようで、認識に誤りがあり混乱してしまいました。
この苦い経験をもとに、以下それぞれどんなものなのか簡単にお伝えします。
原本
公正証書は、通常の契約書のような原本2部ではなく、原本は1部のみ作成となり、公証役場で保管されます。署名、押印した公正証書が原本です。
※震災その他の天変地異やによる紛失や、第三者による改ざんの心配などがないとのことです。
正本
公正証書の原本は公証役場に保管されるため、公証人は、原本に基づいて正本(せいほん)を作成して私たちにに交付してくれます。
原本と同じ効力を持つ、原本の写しということです。
公証役場に依頼すれば、再発行可能です。原本が公証役場に存在しているからこそ、正本の再発行が可能となるわけです。
謄本
謄本も原本の写しのことです。
謄本のイメージとしては、役所で取得する「住民票や戸籍謄本」と同じです。世の中に一つしかない原本は役所にあり、その写しではあるが効力のあるもの、のことですね。
正本と謄本の違い
これがとてもややこしいのですが、色々調べた内容をざっくりまとめてみます。
正本は、謄本の一種で、原本の作成権限がある者によって原本に基づき作成される、原本と同一の効力を有する書面のこと。
登記の申請や強制執行申立などの手続きにおいては、この正本が必要となるため、債権者(私たち)に交付されるとのことです。
一方で謄本とは、原本の存在と内容を証明するために、権限のある公務員が、原本の内容をそのまま写して作成した書面のこと。
つまり、効力の大きさでいうと「正本>謄本」ということだそうです。
<参考:公正証書.net>
http://www.kouseishousho.org/menu04.html
ペアローンに必要な書類は正本?謄本?
では、ペアローン審査に必要な書類の話に戻りますが、正式な情報については公式ページなどを参照してください。
たとえば、ソニー銀行では、「正本または謄本」が必要。
https://faq.moneykit.net/faq_detail.html?id=1220223
住信SBIネット証券では、「謄本」が必要。
https://help.netbk.co.jp/faq_detail.html?id=5259
謄本でいいなら、それより効力の大きい正本でももちろん良いということです。ですが、効力の小さい謄本で事足りるならそれでもいいですね。
管理人調べによると、現段階では「謄本」を提出すれば問題なさそうです。手元に効力の大きい「正本」しかないなら、その提出でもOKです。
あとで必要になったら、いずれも再発行可能です。発行費用は同額です。
ちなみに私たちは、金融機関の公式ページでは謄本と記載がありましたが、金融機関の担当者から正本が必要と案内されていたので、正本を渡してしまいました。その際、どちらが正しいのか確認に数日かかったりしてます。
効力的には問題ないので結果オーライでしたが、そもそも不動産の担当者も金融機関の担当者も、事例も多くない中でまだよくわからずに進めてくださっているので、担当者任せにせず、私たち当事者が正しい理解をしておくと、とてもスムーズなのかなぁと思いました。
まとめ
公正証書作成にあたってのポイントは、以下のとおりです。
- 作成手順:文案サンプル→文案作成→公証役場予約→相談、手続き
- 登記完了まで3週間+登記事項証明書取り寄せ2週間
- 公正役場への費用は6万円強
- 効力の大きさは「正本>謄本」だが、提出はどちらでもOK
以上、ざざっと私たちのケースの作成の流れを紹介しました。もし今後、公正証書の作成を検討する方がいれば、ご参考にしていただければ幸いです!