私たちカップルは、同性同士で住宅ローン「ペアローン」を組んで、マンションを購入しました。
ペアローンを組むにあたり、夫婦・親子ではない私たちに必要だったのが公正証書です。
ローン以外にもさまざまなケースで必要な公正証書。そもそも公正証書って?どうやって作るの?という疑問から、私たちが体当たりで自力で作った経験を書いていきます!
今回は前編として、公正証書って何?という話です。後編は実際の流れや費用などをぶっちゃけます。
公正証書ってなに?
同性カップルの中ではたびたび耳にするかもしれない「公正証書」。
どういったものなのか、ざっと見ていきます。
公正証書とは
まず、法務省からの定義を引用してみます。
公証制度とは、国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的として,証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度です。~(以下略)
公正証書とは、私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。 - 出展)法務省:公証制度について
なんのこっちゃ、という感じなので、もう少しかみ砕いてみます。
公証人
公証人とは、同じく引用元の法務省(公証制度について)を参照してまとめると、「裁判官や検察官、法務局長などを長年勤めた、選ばれた法律の専門家のことで、法務局管轄の公正役場で事務を行う人」のことです。
公正証書の目的
これは行政書士 東京中央法務オフィスさんのサイトから引用します。
公正証書の目的は、契約や遺言などの一定の事項を公証人に証明させることにより、国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化・安定化を図ることであり、作成された原本は公証役場に保管され、債権者には正本が、債務者には謄本が、それぞれ交付されます。
※遺言公正証書の場合は、遺言者に正本と謄本のどちらもが交付されます。 -出展)行政書士 東京中央法務オフィス
ということで、公正証書の役割や目的を簡単な言葉にまとめると、
ある事項を事前に取り決め、公的に認証権限を持った第三者である公証人に2人の契約書を証明してもらった契約書。
また、その証明によって個人間の揉めごとを事前に防ぎ、法的関係を明確化、安定化を図るもの。
ということですね。
どんなときに使われる?
一般的には、以下のようなケースで使われるようです。
- 異性婚の離婚に伴い、慰謝料や養育費の支払いについて取り決めをしたとき
- 遺言書を作るとき
- お金の貸し借りをしたとき
「公正証書」でググると、だいたい離婚関連の情報が出てきます。
このように、一般的には”揉める案件”に対する取り決め(≒法的根拠)として使われるもの、と言えそうですね。
同性カップルにとってのメリット
改めてですが、日本では同性婚が認められていません。(2019年8月現在)
私たちにとっては「結婚」という制度を利用できないデメリットをカバーするための「法的権利」を得るものがこの公正証書とも言えそうです。
公正証書にも色々ありますが、その中でも私がいま特に重要と考えているのが以下の3種類です。
- パートナーシップ合意契約
- 任意後見契約
- 遺言
この中で、遺言はまだ手を付けれられていないので、追々勉強して作らないといけないと思っているところです。
一方で、「パートナーシップ合意契約」「任意後見契約」については、住宅購入のためのローンを組む際に作りましたので、この2つについて具体的に書いていきます。
ペアローンに必要な公正証書
ペアローンの回にも記載しましたが、取り扱い民間金融機関のほぼ全てが「渋谷区が発行するパートナーシップ証明書」もしくは、「任意後見契約および合意契約に係る公正証書、任意後見契約に係る登記事項証明書」を提出することを条件にしています。
つまり、渋谷区のパートナーシップ証明書があればそれを提出すればOK。その証明書がない場合、以下3通の書類が必要ということです。
- 任意後見契約に係る公正証書
- 合意契約に係る公正証書
- 任意後見契約に係る登記事項証明書
①②は公正証書そのものですね。
③の「登記事項証明書」とは何かというと「法務局の登記簿に登記されている情報が記載されており、その内容を証明する書類」のことです。
なので、③は「①の任意後見契約が無事登記されていることの証明書」みたいなものです。これを登記後に法務局から取り寄せる必要があります。
2種類の公正証書を作成すれば終わり、ではないことにご注意ください!
①パートナーシップ合意契約
婚姻関係に準じた関係を作るための契約書で、 2人の共同生活上の合意事項(約束ごと)をまとめたものです。
渋谷区のパートナーシップ証明書が有名ですね。
<渋谷区パートナーシップ証明書>
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/partnership.html
この渋谷区パートナー証明書を発行するにあたり、「合意契約に係る公正証書」が事前に必要なのですが、以下の事項の明記された公正証書が作成されていることを必須としています。(上記渋谷区のリンクに記載あります)
- 二人が愛情と信頼に基づく真摯な関係であること。
- 二人が同居し、共同生活において互いに責任を持って協力し、及びその共同生活に必要な費用を分担する義務を負うこと。
そして、ローン取り扱い金融機関のほぼ全てが提示する「合意契約に係る公正証書」は、現時点ではこの渋谷区パートナーシップ証明書に記載の条件を、思いっきりそのまま踏襲して(パクって)います。
例)ソニー銀行
【住宅ローン】同性パートナーとペアローンを利用したり、同性パートナーを担保提供者とする場合の利用条件を教えてください。
(~略)
(*2)おふたりが共同生活を営むにあたり、当事者間において、次の事項が明記された公正証書を作成していることを確認します。
- おふたりが愛情と信頼に基づく真摯な関係であること。
- おふたりが同居し、共同生活において互いに責任を持って協力し、およびその共同生活に必要な費用を分担する義務を負うこと。
-出展)ソニー銀行 よくあるご質問
つまり、住宅ローンで必要な「合意契約に係る公正証書」は、基本的に渋谷区が提示している公正証書作成の手引き通りの内容を盛り込めば、不備はないと言えます。
②任意後見契約
認知症や不慮の事故で意識不明になった時などで、判断能力が失われた人にキーパーソンをつけて、財産管理や契約の代理をする制度があります(成年後見制度)。
このキーパーソンを、あらかじめ自分で指定しておくことができるのが「任意後見契約」です。
※あらかじめ指定しない場合は、家庭裁判所が選出する見ず知らずの弁護士・司法書士・行政書士等の国家資格者や、法律上の家族・親族となります。
<参照:法務省 成年後見制度~成年後見登記制度~>
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html
実際に判断能力が衰えたときは、裁判所への申し立てを経てこの契約を発効させてパートナーが正式に後見人となり、本人の財産管理や契約の代理をします。
渋谷区のパートナーシップ証明では、先の合意契約だけでなく、この任意後見契約もしていることが証明書発行の要件となっています。
- 任意後見契約の公正証書の登記完了後、登記事項証明書を取り寄せることを忘れない
- 渋谷区のパートナーシップ証明、公正証書作成の手引きを参照する
司法書士に作成依頼する?
公正証書を作成するには、文案サンプルを参照しながら自力で作成するほか、司法書士に相談しながら作成依頼する方法もあります。
ググるとわかると思いますが、合意契約だけで5万円~、任意後見契約も5万円~など、委託費用がかかります。
もちろんパートナー2人の取り決め事、ましてや法的なものになるので、じっくり内容を検討すべきではあります。
ただ、せっかく渋谷区パートナーシップ証明書の文案サンプルがあるので、まずはそれを元に検討し、プラスアルファで手助けが必要そうであれば司法書士に依頼する、というのも一つの手かと思ってます。
もちろん自力で文案作れば、費用面浮きますしね。
EMA日本
さらに、私たちは知らなくて利用しなかったのですが、お友達のカップルさんは「EMA(Equal Marriage Alliance)日本」さんの案内がとても参考になったと言っていました。こちらも合わせてご紹介します。
<EMA日本>
http://emajapan.org/aboutemajapan/%e5%a9%9a%e5%a7%bb%e5%a5%91%e7%b4%84%e6%9b%b8
まとめ
法的関係を明確化、安定化させるために、色んなところで使われる公正証書。
同性カップルにとっては結婚という制度が使えないので、私たちの生活を守っていくために公正証書を活用するメリットは大きいと考えています。
「ペアローン」を組むための公正証書という観点で、作成のポイントはこちらです。
- 公正証書とは、公証人に2人の契約書を証明してもらった契約書で、法的権利を得るもの
- ペアローンには「パートナーシップ合意契約」「任意後見契約」の2種類の公正証書が必要
- ペアローン提出用に「任意後見契約の登記事項証明書」の取り寄せを忘れない
- 自力で作るなら、渋谷区のパートナーシップ証明、公正証書作成の手引きを参照する(もしくはEMAなどでもOK)
後編は、私たちが実際に公正証書を作成した際の流れや費用などについて、具体的に書きます。ご参考にしていただければと思います!